【シャニマス】黛冬優子の逃避行
「……良い景色ね」
窓の外を流れる景色は、腹が立つくらい綺麗だった。
キラキラと水面を光らせ波打つ海、空を羽ばたくカモメ。
その更に上には太陽が、これからの季節へ向け気合を入れるかのように眩しさを増し続けている。
反対の窓にはひたすらに緑の海が広がっている。
山の斜面にある民家は間隔が広く、いかにここが田舎か物語っていた。
「……あぁ、綺麗だな」
電車に揺られ、大して面白くもない返事をする。
反対の席に座る冬優子は、ずっと窓の外を眺めたままだった。
動くことも此方を向く事もなく、ただ延々と電車に揺られている。
東京を出たのはいつ頃だったろう、少なくとも午前中だった筈だ。
機内モードにしたスマホを見れば、既に時刻は14を回っていた。
今機内モードを解除すれば、たちまち画面は大量の通知で埋め尽くされる事だろう。
解除した瞬間に着信が来るかもしれない。
ネットやSNSを覗く気力も無い。
見てしまえば、きっと心が折れてしまうから。
俺たち以外、この車両に乗客は居ない。
小さな箱の中、更に狭いクロスシート。
此処は今、俺たちだけの世界だ。
ほんの少し前までもっと広いステージを独り占めしていたアイドルの面影は、最早無い。
しゅぅぅぅぅ……
アナウンスも無く、名前も知らない駅に電車は止まる。
別の車両から、乗客が降りる音と声。
彼、彼女らはこの地に暮らしているのだろうか。
そんな知りもしない、普段だったら考えもしない事に意識を向けているうちに、気付けば電車は再び次の駅へと向かいだしていた。