【蟲師SS】ギンコ「これは、酷いな」

【蟲師SS】ギンコ「これは、酷いな」

【蟲師SS】ギンコ「これは、酷いな」

1: 2015/05/16(土)20:06:19 ID:lPP
劇場版公開を記念して。
超観に行きたい。

2: 2015/05/16(土)20:07:20 ID:lPP
「これは、酷いな」
木の枝が鬱蒼と茂り、陽の光を全く遮っている。
「まさか、これ程とは」
木の根が地面の至る所を這い回り、少しでも気を抜くと脚を取られて仕舞う。
とある南の地方の、山中である。草木が生い茂り、生命の香が濃密に大気を満たしている。呼吸をすると、咽せる程だ。
不図、ギンコが脚を止め、肩から薬箱を降ろし、その場に蹲った。
地面に耳を着け、大地の声を聴く。正確には、大地に蠢く蟲の様子を、聴覚を通じて知ろうとしているのだ。
目を瞑り、凡ての器官を絶って、少しの異変も逃すまいと、右耳に注力する。
ギンコが地面に臥して居るその僅かの間に、ギンコの周りでは草が一尺近くも其の背丈を伸ばした。
木々には花が咲き、散って実と成り、落ちる頃には新たな蕾を付けている。種は落ちた傍から萌え、見る間に成長して行く。
百花繚乱―――。
山には絶え間なく花が舞い、甘い香りが充満している。
宛ら桃源郷の様だが、しかし其の一方で、瞬く間に生命を燃やし尽くした草木は枯れ、腐敗して地面を覆っている。
此処は極楽か、それとも地獄か。
生の尺度が胡乱として、掻き混ぜられて煮詰まった鍋の底で、ギンコは原因に行き当たった。
「聞いていた通りだな」
立ち上がり、外套の泥を払って薬箱に腰掛ける。薬箱の天面には、落ち葉と花びらが入り乱れて堆積していた。
「光脈の流れが、止まっている」
独りごちるギンコの肩に椿の花が首を落とし、跳ねて地面に転がった。


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