【モバマス】塩見周子「誕生日に」東雲荘一郎「想を練る」
卯月巻緒
街の光。人いきれ。流れるクリスマスソングが満ちて、視界に入る人々もどこか浮き立っているように感じられる。
「うわぁぁっ! ケーキって見てるだけで幸せになりますよねっ!」
ショーケースには煌びやかなケーキが絢爛として並んでいる。
菓子細工のサンタが乗ったチョコレートケーキ、ビュッシュ・ド・ノエル、6種のアソート、苺の赤と生クリームの白が冴えるミルフィーユ。
冷えた舞台で、その存在と、想像の甘さを振り撒くそれは……アイドルにも似て。
――……
『あんこじゃないのもつくれるんですか』
『そうだ。冷蔵用のショーケースが来たら、生菓子も売りだしてみようと考えてる。
今までは常温でしか置けなかったから、三笠もあんこと果物を飴衣で包んだものぐらいしか出せへんかったけど、クリームやカスタードも素材として使えるようになる』
『カスタード……』
『ああ。実はもう試作したのがあってな。食べてみるか?』
『は、はい!』
『お前も、これやったら食べられるやろ……?』
――……
巻緒「ねっ! そう思いますよね! 東雲さん!」
荘一郎「ええ……。ほんまにきれいで……おいしそうです」
遠い日のやりとりが胸に去来したのはなぜだろう。
遥かな憧れと希望が――あの、甘い香りに潜んでいたのか。