【モバマス】「夏色」
頭の中がこんがらがって、テーブルの上に突っ伏した。
テーブルはひんやりと冷えていて、ほっぺがちょっと気持ち良い。
そのまま体を前後に揺らし、ほっぺがムニムニ動くのを楽しむ。
カリスマJCアイドルのアタシだけど、今は家だから良いよね?
「こーら、行儀悪いよー」
台所の方から、お姉ちゃんがそれを見咎めて声をかけてきた。
バタンと、冷蔵庫が閉まった音。
歩いて来る両手には、麦茶が注がれたコップが二つ。
氷も、仲良く二つずつ。
「だって~……」
アタシがこうなるのも、無理無いってカンジ!
今度発表する、カバー曲――『夏色』。
ジャカジャカ鳴るギターと、ハーモニカの音色がチョーステキな曲。
歌詞の内容も、あっつーい昼間だったり、熱い夜だけど風が気持ち良いとか……。
とにかく! チョー良い曲なの!
「ホラ、お茶飲んで気分転換しな」
お姉ちゃんが、苦笑しながら麦茶を勧めてきた。
さっき入れたばっかりなのに、コップにはもう水滴がついてる。
どんどん増えていく水滴を見続けてると……あっ、垂れた。
「……はーい」
頬にかかった髪をかきあげながら、体を起こす。
冷たいテーブルからちょっと離れたくなかったけど、しょうがない。
氷が溶けて、水っぽくなった麦茶って美味しくないもんね。
せっかくお姉ちゃんが持ってきてくれたんだから。
「……っぷはー、生き返るぅ~!」
冷たい麦茶を飲むと、汗をかいて失った水分が一気に補充された気になる。
ゆだっていた頭も、おかげで、ちょっとスッキリした。
テーブルの正面で、そんなアタシの様子を見ながらお姉ちゃんがクスリと笑った。
Tシャツにハーフパンツのラフな格好なのに、
その笑顔がキマってて、妹のアタシ贔屓目を抜きにしてもカッコイイ。
「ねえ、お姉ちゃん」
だらけていた気持ちを追いやって。
「どうして、ブレーキいっぱい握りしめるの?」
妹から、姉への相談ではなく。
後輩アイドルから、先輩アイドルへとアドバイスを求めた。