【モバマス】346プロの奇怪な夏
「P.C.Sの三人が休み?」
夏も盛りの八月一日。
ほんの数日前までは雨と曇りの連続でそこまで暑くない日々が続いていたと記憶しているが、それが遠い彼方の事の様に感じられる程、猛暑がここ数日を無限に感じさせていた。
何処に潜んでいたのだろう蝉の大群が街を我が物顔でコンサート会場とし、空では太陽が何をそんなに張り切っているのかひたすらに存在感を主張している。
世間の学生はこの暑さに、休みに向けてワクワクしながら立てた予定に首を絞められ嫌気がさしている事だろう。
海やプールは何処も満員電車を超える混雑具合だろうと言うことは、現地に赴かなくても分かる。
友達との遊びの予定が立たず、かと言って家で何もせず過ごすのも勿体ないと思った小・中学生組はよく事務所に来て遊んでいた。
冷房は勿論の事、購買、知り合い、トレーニングルーム等々求める物はなんでも御座れ。
何より安全面・防犯面においてはそこらのアミューズメント施設とは比にならないレベルなので、親御さんも安心されている事だろう。
つい先ほど隣の部屋で、夏休みの宿題をやっている子と飽きて落書きしている子を見かけた。
まぁ、そんな夏が夏として続き、八月に入った今日この日。
アシスタント兼事務員の千川ちひろから、アイドルユニット『P.C.S』の三人が体調不良で休みと報告を受けた。
島村卯月、小日向美穂、五十嵐響子の三人が同時に体調不良となると、当然ながらレッスンも仕事も何も出来ない。
ありがたい事に今週は特に予定が無かった(とはいえレッスンの予定はあったが)ので、トレーナーさんに連絡するのみで済む。
「ここ最近暑かったですから……熱中症じゃないと良いんですけど……」
「レッスンルームのエアコン、調子悪かったりしましたっけ?」
「その様な報告はありませんけど……プロデューサーさん、彼女達のスケジュールの方は大丈夫ですよね?」
「はい、響子の誕生日ライブがある八月十日まではレッスン以外入っていません」
逆に言えばそれまでに体調を治して貰わないと、本当に大変な事になる訳だが。
特に病気や怪我でないただの体調不良ならば、そこまで心配しなくて大丈夫だろう。
普段から熱心にレッスンに取り組んでいた彼女達ならば、数日の休みでの遅れ程度なら、直ぐに取り戻せる筈だ。
……三人同時に、か。
一人でも体調が治るまで、暫くは完全にストップだな。
「……三人が最後にロケに行ったのっていつでしたっけ?」
「三人一緒に、ですか? 確か六月の『関東タピオカリポート』だったと思います」
「六月か……なら大丈夫そうですね」
「…………?」
それは原因とは関係なさそうだ。
いや、寧ろそういった可能性の方が圧倒的に低い事くらい理解している。
ロケに行ったからと行ってその都度何かあったのでは、芸能界なんてとうに滅びている。
首をかしげるちひろさんを放って、俺はパソコンに向き直った。
この後は外回りだが、どうやら外の気温は三十度をゆうに超えているらしい。
空調の壊れた日本には一刻も早くメンテナンスか秋に入って頂きたいが、まぁそうもいかないだろう。
冷感スプレーとボディペーパーに全てを託し、覚悟を決めるまでの時間稼ぎにキーボードを叩き続けた。