【文学少女】遠子「ねぇ、心葉くん」心葉「なんですか?」
心葉「ええ」
一応、形になった原稿を推敲していると、昼食を作ってくれていた遠子先輩がキッチンカウンターから顔を覗かせて、ダイニングテーブルで仕事をしていた僕に話の水を差し向ける。
べつに、それを邪魔だとは思わない。
遠子先輩の声は耳に心地が良かったし、何か作業をしていても構わず声をかけてくるのは昔からのことであったから、僕はといえばすっかり慣れたものだった。
遠子「それでね、心葉くん。電子書籍が横行する世の中になってしまうと、私は何を食べていけばいいのかしら。画面で美味しそうな物語を見ることはできるのに、実際にいただくことはできないのよ。これって酷い生頃しよね」
心葉「まあ、いいじゃないですか。遠子先輩が食べるものは僕が書けばいいんですから、どんな未来になったとしても、この世から先輩が食べるものがなくなることはないですよ」
実際に、遠子先輩と同棲を始めて二年になるが、その間、朝に昼に晩と一日に最低三度、多い日には一日に五度ほども、彼女のために物語を書いている。