モバP「翠色の絨毯で」【後編】
初期設定の着信音が鳴った事に気づくと、ディスプレイの文字を見る。
そこには『青木 麗』と表示され、それを元に発信相手を判断した。
「麗さんか…どうしたんだろ」
今日の彼女の予定といえば、相変わらず翠とのレッスンであった。
昼過ぎの今なら、彼女達は昼食の休憩を終えて練習を再開しようか、といった頃合いだろうか。
それにしても珍しい事が起きたものだ。
携帯電話番号とメールアドレスはそれぞれ交換しているが、こうして連絡した事はレッスンの予定変更やスケジュールの相談等以外では全く無かった。
その連絡さえも俺がほぼ毎日翠に会いに行っているせいかその都度口頭で連絡出来てしまっていて、実際に使われたことはあまり記憶に無い。
本人も公私の区別は付けていて、この連絡帳を使う時は何か緊急のことぐらいだろうな、と笑って言っていた。